「どうしたの、しずちゃん」
彼女は一点を見つめたまま、鮎川に何も返さない。
変に感じて、その視線をたどるわたしは、
「あ……あれって」
途中で見覚えのある人を見つけ、思わず声を漏らした。
「沢部だな」
「だよね! 副会長だった沢部くんだ」
鮎川と一緒に、ひとりでベンチに座っている中学の同級生を眺めた。
「でも……あの制服って……」
濃い紫のブレザー、黒のチェック柄ズボン。
“有名デザイナーが作った”という奇抜な制服が有名だから知っている。
確か、都内にある私立の学校だよね?
「アイツ、なんでこんなとこにいんだ? 学校も家もこっちじゃないだろ」
鮎川も同じ疑問を抱いているみたい。
この駅は周辺に高いビルが沢山ある。けれど、遊べるようなお店なんてひとつもなくて、街を歩くのもビジネスマンが多い。
さっきのハンバーガーショップでも、お客はうちの生徒か大人しかいなかったんだよ。
沢部くんの学校は逆方向だし、こんなところにいることを変に感じてしまう。
すると、わたしたちの視線に気づいたのか、彼もこちらに目を向ける。
そして、すぐに立ち上がり、大きな紙袋を手にゆっくり歩いてくる。
「……っ、こっちにきた!」
「ちょっ……オレ、喋ったことねぇよ? アイツと」
すぐさま鮎川の後ろに隠れたけれど、鮎川もわたしの後ろに来ようしてきて、
「ちょっ、あんたが話してよ」
「なんで! オレ、ああいう真面目なヤツは苦手だし!」
ああだこうだと言い合っている間に、沢部くんはそばに来てしまった。
「あ……沢部くん、こんにちは」
とりあえず、挨拶だけはしておこう。
そう思って、笑顔で話しかけたんだけど、