「アイツ、おにぎり持ってウチまで届けにきてさ……食べなきゃ死んじゃう、って怒ってきたんだ」

「……」

「アイツの2番目の姉ちゃん、そんときは高1だったんだけど……中2のときに体型が変わって、オレみたいに食べなくなったんだと」

「っ!」

「食べ物を見たら瞬時に“太る”って思うようになって、食っても吐き出すようになったらしい」

「……」

「食べなくなって……ガリガリにやせて、入院までしたとか言ってた」

知らなかった、そんなこと。

だって、小学生時代のユノはいつも楽しそうで、ニコニコしていて……。

家族がそんなことになっているなんて思いもしなかった。

「その話を聞いたら怖くなってさ、オレ……握ってくれた飯を急いで食べたんだ」

「……」

「食ってるとき、ユノは言ってた……“たぶん、もうすぐボクも太るよ”って」

太ってしまう家系に生まれたユノ。

いつも明るかった彼は、その笑顔の裏で……。

「あ……だから、鮎川は驚いてなかったんだね?」

「ん?」
「全然ビックリしてないな、って思ってたの。入学式のとき……」

「ああ、あの日か。うん、大体の想像はしていたからな……太ってることに動揺はしなかった」

入学式の日、鮎川はうろたえるわたしを見ても、しずちゃんのように驚かなかった。

わたしがショックを受けることも予想していたような、そんな態度だったの。

「なぁ、山咲……」

「ん?」

「お前、さっきさ……自分はちょっと太っただけでも気にする、とか……そんな感じのこと言ってたじゃん?」

「……うん」

「今の話を聞いてさ、ユノが全く気にしてないように思うか?」

「……」

そうは思わない、けど……。

「早朝と夕方は近所の公園で走ってるって言ってたし……体育の授業もいちばん頑張ってる。お前だって知ってるだろ? オリエンテーションで一緒に実行委員をやってたんだからさ」

「……」

「アイツの動き、なまってねぇだろ?」

「……あ」

言われてみると、確かに……。

あの3日間、ユノはどの実行委員よりも働いていた気がする。

テキパキと動いて、みんなが面倒くさがることもすすんでやっていたから、指示を出す側の先生も自然とユノに頼むようになっていた。

それだけじゃない……。