“好きでいてもいいかな?”

オリエンテーション最終日の朝が頭の中を過ぎる。

あのときのわたし、ユノの真っ直ぐな目に戸惑って、何も考えずに「ダメじゃない」って言った。後で振り返り「あの返事はどうなの」と自分にツッコんだの。

だって、わたしはもう、以前のようにユノを想ってはいない。なのに、あんな言い方をして……変に期待させたかもしれない。

わたしの「好き」がいつか戻るなら、ああ返してもおかしくはないんだろうけど、戻る気配なんて今のところないし……。

「そういや……ユノくん、相撲部から熱烈な勧誘されてるって噂だよ」

「へぇ、そうなの?」
「うん、マミちゃんたちが見かけたんだって。断ってたらしいけど」

「ふうん」

男子たちに混ざって教室を出て行ったユノ。

わたしも家庭科の準備をして、席を離れる。

と、そのとき、

「あ、果歩(かほ)ちゃん!」

閉まったはずの教室のドアが少しだけ開いた。

その隙間から顔を覗かせたのはユノ。

「っ!」

どくん、と胸が高鳴る。

「エプロン姿、楽しみにしてる!」

二重まぶたの大きな瞳。スッと高い鼻筋に、形の綺麗な薄い唇。

柔らかなその笑顔に衝撃を受ける。

凍りつくわたしは、ドアが閉まるまでユノの顔に見とれていた。