それから2時間後。山登りの休憩で、みんなから離れてひとりで過ごすわたしは、出発前にユノがくれた表札をじっと見つめる。
1枚の板に描かれたふたつの空。左半分に雲と太陽、右半分には星と月が彫られている。
見た瞬間、つながってるんだよと言われたあの卒業式を思い出した。
「……いた。探したよ、果歩」
ぼうっとするわたしの横に腰を下ろすのは、しずちゃん。
彼女はリュックを下ろし、中からペットボトルの水を出す。
「あんたも飲む?」
「……いらない」
「あ、そ」
ゴクゴクと喉を通る音が耳に入る。
「しずちゃん……」
「ん?」
「わたし、ダメな子だね」
「どうしたの、急に」
ユノと話して、自分に嫌気がさした。
「変わってなかったの、ユノ」
「……」
「変わったのは見た目だけで、中身はあのままだった」
優しくて、いつもニコニコしていて。
表情も言葉も、気持ちに素直な人。
「わたしのほうだね……変わったのは」
情けなくて、腕の中に顔を埋めた。
「あのままだってわかったのに、わたし……ユノに恋してない」
「……」
「あの頃みたいに大好きって気持ちにはなれないの」
好きでいていいかと聞かれたとき、好きが戻らない自分をダメに感じた。
ユノの言葉はいつも真っ直ぐで、そこにコンプレックスやプライドなんてひとつもなくて。
素敵な人なのに好きになれない自分は、とても醜い。
「いいんじゃない?」
黙って聞いていたしずちゃんが、前を向いたまま口を開いた。
「世の中にはさ、好きじゃないのに“好き”って言う人もいるんだよ」
「……」
「自分に嘘をつくよりはいいんじゃない? そっちのほうが」
真剣な横顔に目を奪われていると、しずちゃんは目を合わせ「ね?」と笑いかけてくる。
ぎこちない笑みで返したわたしは、そっと上を見る。
“よく空を見上げて、果歩ちゃんのことを考えてた”
わたしもだよ、ユノ。
わたしもね、離れていた間はよくこうやってユノを思い出してたんだよ。
◇ ◇ ◇
2泊3日の宿泊オリエンテーション。
親睦を深めることを目的としたこの行事で、わたしのユノを見る目は少しだけ変わったと思う。