「果歩ちゃんはどんなのにする?」
「んとねぇ、自分の部屋用にしたいから“KAHO’S ROOM”って書くつもり」
「あー、それいいね! わたしもそうしようかなぁ」
マミちゃんたちとデザインを見せ合う中、ユノのことも考える。
“果歩ちゃんはどんな表札を作るの?”
似たような言葉で聞かれたから、ふと思い出してしまったんだ。
“彼氏ヅラしないで”
……別に、言ったことに後悔はしていない。
だって本当に嫌だったし、あそこでハッキリ言わなきゃ男子たちの冷やかしはエスカレートしていたと思う。
否定しないユノも悪いんだ。
しずちゃんは「ユノが可哀想だ」って言ったけど、わたしだって、
「あ……」
考え事をしながら作業をしていた。だからだろう。力任せに彫っていたら手元が狂い、そのまま勢いよく彫刻刀の先で左手の人差し指を突いてしまった。
「果、果歩ちゃん!?」
「やばっ……先生を呼んでくるよ!」
「わ、わたしも!!」
マミちゃんたちが慌てて席を立つ。
走ってく彼女たちの後ろ姿を眺め、わたしは傷口を親指でおさえた。
痛みはそれほど感じていない。なのに、皮が削れた部分からじわじわと血がにじみだし、拭っても拭っても溢れてくる。
「っ……」
後になって痛みが増す。両指はもう血で真っ赤。
「なんで止まらないの?」
マミちゃんたちを待っていた。まだか、まだか、と不安になりながら。
でもそのとき突然、誰かが隣に腰掛けてきて、
「……ユノ」
顔を上げた瞬間、彼は何も言わずわたしの手首を掴み、
「っ!?」
怪我した指をパクッとくわえたの。
「ユ……ユノっ」
ビックリして声が上ずった。
「エロ!」
「おーい、みんなー! ユノが山咲(やまざき)の指、なめてんぞー!」
周りにいた男子たちが大声で騒ぎ始める。
カッと熱くなる顔。急いで腕を引こうとした。
恥ずかしくてもうやめてほしいのに、
「……ジッとしてて」
ユノは手首を持つ手に力を込める。
指先の血を吸いつつ、ポケットからハンカチを取り出した彼は……。
「これでよし」
ハサミでジャキジャキと細く切ったハンカチの切れ端で、指の根元をぎゅっと縛ってくる。
そして、残った切れ端で血が出ている部分をまき付けてから、
「腕を心臓より高く上げて、傷口を抑えておくといいよ。あと、消毒する前にちゃんと水で洗ってね」
わたしの腕を持ち上げて、にっこりと微笑んでくる。