「お、ユノ! お前の彼女がいるぞ!」

ユノのそばにいた男子がわたしに指を差してくる。

「え、果歩ちゃん……ユノの彼女なの?」

「うそ! 知らなかった!」

周りのみんなはその言葉を真に受け始め、

「彼女じゃないよ!」

慌てて否定した。でもユノのほうは、

「果歩ちゃん!」

付き合ってないと否定せずに、懐っこい笑顔で駆け寄ってくる。

「今からお風呂?」

「……」

「オレね、明日作る表札を果歩ちゃんにプレゼントしようと思ってるんだ!」

なんで伝わらないんだろう。

「どんな形がいい?」

結構わかるように避けたつもりなのに、なんでまだ話しかけてくるの……。

「ヒューヒュー!」

「アツアツですなぁ、おふたりさん!」

クラスの男子たちが冷やかしてくる。

目を向けると、鮎川も黙ってわたしたちの様子を眺めていて。

周りにいたみんなは一歩離れ、興味津々な顔をしている。

「果歩ちゃんはどんな表札を作るの?」

ユノはそんな周りの様子も気にならないみたい。

まっすぐわたしだけを見て、ニコニコ笑いかけてくるの。

「……ラしないで」

付き合ってないんだから、ちゃんと否定してよ。

「ん? 何?」

否定しないと、どんどん誤解されてくじゃん……。

「彼氏ヅラしないで」

溜まりに溜まって、はっきり言った。

その言葉でユノの表情はピタッと固まる。

それでもわたしは、これ以上冷やかされないために、

「わたし、ユノの彼女じゃないよね!?」

みんなに聞こえるよう大きな声で叫んだ。

「果歩ちゃ……」

「表札もいらないから! 迷惑!」

冷めた目でユノを睨む。

場はしんと静まり返った。

気づけば、卓球で騒いでいた男の子たちもこっちに注目していて。

「っ……」

わたしは眉間にしわを寄せたまま、早足で大浴場へ向かった。