「…………え」


ユノの肩の向こうに、たくさんの苦しい顔。電車が激しく揺れるたび、それらはもっとつらそうになる。

そこで、わたしは気がついた。この電車は途中で満員電車になっていたということに。


「ユノ……」

「ん?」
まさか、と心の中でつぶやきながら声をかけた。

すると、ユノは案の定、平静を装って穏やかな表情を見せてくる。


「……」


ユノの体とわたしの体の間には微かなスペース。

決して広くはないけれど、そこに苦しさを与えてくるものはひとつもなかった。


「っ、も……もういいよ! 腕疲れるから!」


わたし、勘違いしてた!

慌てるわたしに、ユノは少しだけ驚いた表情をする。

けれど、そのあとすぐに、


「大丈夫だよ」


彼はふわっと優しく微笑む。

そして、


「今、放したら……果歩ちゃんはオレに潰されちゃうよ?」


二重あごがプルプル震えるくらい力みながら、最後まで守ってくれていた。