「これは僕と彼の交渉だよ。……キミが食べると言うのなら、この話はなかったことにさせてもらう」

「……ふざけんな。お前はユノを太らせたいだけだろうが!」

鮎川が怒鳴っても、先輩はひるむことなくユノだけを見つめていた。
その視線に負けたのか、ユノは文句を言い続ける鮎川の肩に手を置き、「もういいよ」と囁く。

「食べたら、本当に……普通科への嫌がらせを止めてくれるんですね?」

「ああ。約束する」

先輩がうなずくのを確認してから、ユノはテーブルの前へ向かった。

「ユノ……」

思わず名前を呼んでしまう。

でも、この声はユノの耳に届いていない。

彼はそのまま用意されていたフォークを手に取った。

そして、わずかな間を置いてから、そのスプーンで生クリームをすくい始める。

“だからお菓子はやめとく!”

頭の中に浮かぶのは、ハロウィンイベントでの言葉。

この2ヵ月、本当に努力して……やっとそこまで痩せたのに。

「リバウンドが怖いかい?」

先輩は眺めるだけでなかなか食べようとしないユノに、急かすようなことを言う。

その言葉にイラッとした。面白がるようなその口ぶりが本当憎らしくて。

でもユノは……。

「全然」

穏やかに微笑み、山盛りにすくった生クリームを口いっぱいに頬張った。