「そうか……なら、こうしよう!」

指を鳴らした先輩は、大げさな手振りをつけて話し始めた。

「キミは辞めさせたいのだろう? 特別進学科が普通科に嫌がらせをすることを。……それは僕も同意見だ。もめ事のたびにこうやって呼び寄せられるのはごめんだからね」

僕は忙しいんだよ。と言って髪をかき上げる先輩は、含み笑いを浮かべた。

「僕のひと言でそれを止めることは可能だ。でも、忙しい合間を縫って動くからには、それなりの条件をキミにも飲んでもらいたいものだね」

「……交換条件、ですか」

ユノの顔色が曇り始める。

先輩はその様子を面白がるような表情で、再び、指を鳴らした。パチンパチン、と2回。

すると突然、昇降口のほうからガラガラという耳障りな音が聞こえてきて……。

まもなく、見物人たちはざわつきながらも一筋の道を作った。

そこを通って現れたのは、いつも先輩といる3人だった。

彼らがタイヤ付きのテーブルで運んできたのは、高さ1メートルほどのウェディングケーキ。

ふたりの間でテーブルが止まると、先輩はにんまりと微笑む。
……嫌な予感がした。

「このケーキは、うちの親が所有するホテルの新作メニューだ。味見を頼まれていたのだが、さっきも言った通り……僕は忙しいから食べる暇もなくてね」

先輩は激しい身振りで忙しさをアピールした後、勝ち誇った表情で「そこでだ」とつぶやく。

けれど、続きを言うよりも先に、ユノが口を開いた。

「代わりに食べろ、と?」

「察しがいいね。……その通りだ。これを全部食べてくれるのなら、キミの要望に応えてもいいよ」

……本当、どこまでも性格が悪い人。

先輩はユノがダイエット中だとわかっていて、ケーキをお腹いっぱい食べさせる気だ。

歯を食いしばって苛立ちを抑えていたら、突如、見物人の中からひとりの男子が飛び出した。

「……オレが食う」

ユノたちのそばへ行ったのは、鮎川だった。

彼は先輩を睨みつつ、テーブル上のフォークに手を伸ばした。

だが、先輩はそれを許さない。