「あんたは第三者なんだから、下手に出て行かないほうがいいよ!」

「っ、でも……」

「余計に話がややこしくなると思う!」

強く言われ、下唇をぎゅっと噛んだ。

輪の中心へ目を向けると、キラオ先輩と目を合わすユノの姿が見える。

わたしはしずちゃんの手から逃れ、そのまま歩みを進めた。

「ちょっ……果歩!」

「出て行ったりはしないよ! でも、ここじゃ何も聞こえないから、もう少し前へ行きたい!」

確かに、事情も知らないわたしが出ていけば混乱を招くだろう。

けど心配なんだ。先輩がまたユノを傷つけるんじゃないか、って……。


見物する人たちに謝りながら前へ前へと進み、ようやく前列までたどり着いた。

3メートルほど先にいるふたりは、まだ睨み合ったまま。

「……ユノ」

隣のクラスの男子をかばうような態勢の彼。

一方の先輩は余裕を浮かべた表情で、腕を組み、見下すような態度をとっている。

先輩の後ろには特進クラスの見慣れない男子。たぶんだけど、元々、ユノはこの生徒から隣のクラスの男子をかばっていたのだろう。

会話のない緊迫したこの状況からは、それくらいのことしか読み取れない。

息をのみ、この先の展開にハラハラしていると、それまで長く続いていたはずの沈黙は軽快な指の音で破られる。