そう考えて言葉を詰まらせていたら、

「松本、あとは山咲に任せて……俺らは帰ろうぜ」

それまで静かだった鮎川が、しずちゃんに声をかけた。

「え、でも果歩が……」

「大丈夫だって。センセーもそのうち戻ってくるだろうし」

気を回してくれたのだろうか。

彼は躊躇するしずちゃんの肩に手を置き、廊下まで連れて行こうとする。

「けど、ひとりで待つのは……」

「大丈夫だって。ほら、早く連絡しないと彼氏さんも帰っちまうぞ」

「ちょっ……押さないでよ!」

無理やり歩かせられるしずちゃん。

わたしは心配してくれる彼女ににっこりと笑いかけた。

「ごめん……もう少しだけ、ここにいたいんだ」

謝ると、彼女は渋々、保健室を後にする。

同じように出ていこうとする鮎川が、ドアの前で一度立ち止まった。

「……山咲さ」

「ん?」

首を傾げると、彼は言いづらそうにして黙り込む。

続きを待っていたけれど、彼は何も言わず「なんでもね」と会話を終わらせた。

「え、何?」

言いかけてやめられると、気になってしょうがない。

前のめりになって追及すると、鮎川は迷いながらも口を開いた。

「山咲……さっきオレに“ありがとう”って言ったけど」

中庭での言葉を持ち出してくる。

うんとうなずくと、鮎川は気まずそうに首をぽりぽりかいた。

「オレ、“ありがとう”って言われるようなヤツじゃねぇから」

「……え?」

「これまで、山咲にはああだこうだと説教じみたことを言ってきたけど、本当のことを言えば……入学式んとき、オレもユノの体を見て……“今はオレのが勝ってる”とか思ってた」

「“勝ってる”?」

「……ああ。……小学生んときのユノはさ、見た目もかっこよくて……人気もあったし、性格もいいし…………非の打ち所がないヤツだったじゃん」

「……うん」

「だから、太ってる姿を見て……“今なら敗けないかも”って、見下すようなこと考えてた」

前に、鮎川は言ってた。小学生のとき自分も太ってた、と。

当時は、ユノに対して劣等感みたいなものを抱いていたのかもしれない。

「けどさ、痩せるって難しいんだよ……口で言うのは簡単だけど。ちゃんと行動に移して……それを継続させなきゃなんねぇ」
鮎川の目はユノに向く。