その後、わたしは靴箱のそばで、彼氏に会いに行ったしずちゃんを待っていた。

「……告白かぁ」

今の彼に“好きだ”と言っても、ふられるような気がする。

足元を見ながらため息をつく。けど、その瞬間。

「……っ!」

昇降口全体は土臭さが充満しているのに、突然、香水の匂いがそれをもみ消していく。

その香りは馴染みのあるもので、嗅いだ瞬間、わたしはすぐにこれから起こることを察した。

気配を感じ、恐る恐る背後へと目を向けると、案の定、そこにはキラオ先輩が。

彼は靴箱の棚に手をつき、ナルシストなポーズをとっている。

一体、いつからそこにいたのだろう。

「……面倒くさ」

声がかかるのを待っていそうな彼をしらけた表情で眺める。

目が合うと、先輩はスッと姿勢を戻して、「やぁ」と言いながら、自分の胸に手を当てた。

「嬉しいよ。恥ずかしがり屋のキミが“告白”を考えていただなんて」

「……また始まった」

スポーツ大会で出会ってから、先輩は週に2、3回のペースで現れる。

毎度毎度、勝手な妄想を繰り広げ、人の話もまともに聞こうとしない。

相手にしないほうがいいな。そう判断して、わたしは静かに背を向けた。

「おっと。このくらいで恥ずかしがるようじゃ、告白なんてノンノンノン」

すぐさまそばに来た先輩は、ぴんと立てた人差し指を横に揺らす。

立ち止まらずに歩き続けたら、今度はいつも先輩と一緒にいる3人の生徒が目の前に立ちはだかった。

毎回こんな感じ。

「……もういい加減にしてください」

振り返ると、先輩は片手でネクタイを緩め、ゆっくりと歩いてきた。

微笑んだその表情は、追い込むことを楽しんでいるみたい。

一定の距離は確保しておきたい。そんな思いで、わたしは後ずさり。

歩みを止めた先輩は、首からスルッとネクタイを引き抜き、その両端を持った。

何をされるのかと思っていたら、

「逃げてばかりいると……逮捕しちゃうぞ?」

ネクタイをヌンチャクのようにピンと伸ばし、キメ顔でニカッと微笑んでくる。

「っ……」

「逮捕しちゃうぞ?」

……また2回言ってる。

いつものことだし、だいぶ慣れたはずなんだけど。

改めて思う。やっぱり気持ち悪い人だな、と。
「キミはもう、完全に包囲されてい……」

「あの、わたしもう帰るんで」

先輩の声をさえぎって、回れ右。1秒でもここから早く離れたかった。

でも、待機していた3人が両腕を広げ、行く手をはばむ。

「通してください」

言っても、3人は無視。

「どいてよ!」

声を大きくしても、3人は平然とした態度。

イラッとして下唇を噛んだとき、今度は耳元がぞわっとした。

「逮捕、し、ちゃ、う、ぞ?」

そばにきた先輩が、途切れ途切れに囁いてくる。

その瞬間、わたしの中で何かがプツンと切れた。