「いいじゃん。痩せるのも“果歩を振り向かせたい”って気持ちからなんでしょ?」

「……うん」

「わたしはそれを聞いて“やっぱいい男だな”って思ったよ? ユノくんのこと」

「そうなんだけど」

「なんでそこで落ち込むの? ユノくんは健康になってかっこよくもなる。しかも、その動機は好きな子を振り向かせるため……ドラマチックじゃん。少女マンガが好きな果歩からすれば願ったり叶ったりでしょ? 万事解決だと思うけど」

「……んー、うん」

しずちゃんの言う通りなの。

痩せてほしかったわたしにとって、これは好都合な展開……だと思うんだけど。

「なんだろ……もう痩せなくてもいいんだよね、わたしは……」

変わらなくてもいい。そのままでいいよ。

そう考える自分がいる。

「健康のことを考えれば“まぁ、痩せたほうがいいか”と思ったりもするんだけど」

さっきのしずちゃんの言葉で、太っていると体に負担があるってことにも気づいたし、“それなら痩せたほうがいいのかも”と考えるようにもなったけど。

でも、あのとき……。

“痩せて……かっこよくなって、果歩ちゃんを振り向かせたい”

嬉しいって気持ちにはならなかった。

そんなことしなくていいよ、と思ったんだよね……。

「それってさぁ」

カートを引っ張っていたしずちゃんが立ち止まる。

押す側に回っていたわたしも、前のめりになっていた体勢を元に戻す。

「好きな相手が更新された、ってことなんじゃない?」

「……“更新”?」

その言葉を聞いて、頭の中にドラキュラの格好をしたユノが浮かぶ。

“あの3年の人、果歩ちゃんのタイプでしょ?”

「っ、わたし好きじゃないよ!? キラオ先輩なんて!!」

しずちゃんまでそんなことを言い出すのか、と呆れた。

「そうじゃないよ」

「じゃあ、誰! そんな相手、他にいないよ?」

ずっと一緒にいたしずちゃんなら、わかるはずだよ?

入学してから今日まで、わたしはユノ以外の男子を見ていないんだから!

ムキになるわたしを冷静な目で眺めるしずちゃんは、小さく息をついてから口を開く。