“もう付き合っているつもりなのかもね”


昨日のしずちゃんの言葉が頭の中をよぎる。


「ちょ、待って……」


身の危険を感じ、慌ててユノの体を押し返す。

でも彼は、


「果歩ちゃん……」


苦しそうに目を細め、切ない声で名前を囁いてきたの。

いつしかユノのあごは三重になっていて……。


「っ、わたし……」


やだっ。キスなんてしたくない!


これ以上近づかないで、と押し返す手に力を込めた。

するとそのとき、


「きゃっ」

「フンッ」
車内がガタンッと揺れ、わたしはその拍子でユノの腕にもたれかかってしまった。


「ご、ごめ……」

「大丈夫? 果歩ちゃん……」

「ひっ」


慌てて謝った。けれど、目と鼻の先にはユノの唇があって……。


「あ、あの……忘れ物したから!!」


ちょうどドアが開いた。

だからわたしは、ユノの腕が顔の横から離れたのを機に、急いで電車を降りたの。


「え、果歩ちゃん! 今から戻ったら遅刻するよ!」

「……っ」


背後で叫ばれても、聞こえないふりで走り続けた。