「フンッ」
「っ!」
ユノがまた手を伸ばしてくる。
今度は何をされるのかと息を呑んだ。
けれど、その手はわたしに触れることなく耳の横を通り過ぎ、
ドンッ!
と勢いよく後ろのドアを叩く。まるで相撲技の「突っ張り」のように。
「……え」
いきなり何……。
「フンッ」
また力んだ声。
彼はドアに手をついたまま、もう片方の手でドア横の手すりも掴み、わたしを囲うような体勢をとる。
瞬時に、わたしは周りの目が気になった。でも、大きな体と太い腕が邪魔をして、他の乗客を見ることもできない。
「っていうか……」
この体勢、もしかして……壁ドンのつもり?
頭の中に浮かんだのは、これまで読んできた少女マンガのワンシーン。
切羽詰った男の子が離れようとする主人公を腕で引き止める場面や、壁に押し付けて余裕のある態度で口説きはじめる男の子の絵が、次々と出てくる。
いつかわたしもと憧れてはいたけど、相手がまさかこんな……。
「って……」
まさかこんなお相撲さんのような体つきの人だなんて。
そう思いながらユノを見たわたしは、目に映るその表情に戸惑う。
「フー……フー……フー……」