「カホ、放課後は空けといて」

目が合うと同時に、悪魔じみた表情で囁いてくる。

「……っ」

性格が悪い人だとわかっているのに、なぜか、わたしの胸はその誘惑的な瞳にドキッと反応してしまい……。

「もう行こう、果歩ちゃん」

ユノがわたしの手をぎゅっと握った。

「あ……ユ、ユノ!」

返事を待つことなく、彼はそのままスタスタと歩き出す。

引っ張られながらも校舎の中に入る間際、後ろを見てみると……。

「っ!」

まだ一歩もそこから動いていない彼は、人差し指と中指の2本で投げキッスをしてきた。

「……変な人」

結局、何の用で話しかけてきたのかもわからないし……。

急ぎ足だったユノは歩調を落ち着かせ、廊下の階段あたりで立ち止まる。

掴まれたままの手首。

振りほどくこともできなくて、わたしは静かにその背中を見つめていた。

「……ユノ?」

まだ怒ってる?

機嫌をうかがうと、彼は「果歩ちゃん」と言葉を返してくる。

そして、向こうをむいたまま、

「……今日、一緒に帰ろ」

真面目な声で誘ってきた。