階段を下りていたとき、ひとりの男の子の声が耳に入ってきた。

顔を上げ、声がしたほうへ目を向ける。

「すっげぇ。デブが暴れてんぞ」

観覧席の後ろの席には4人の男の子。

体操着じゃないから、たぶん、試合を観にきているんだと思うけど。

同じ学年じゃない気がする……。

「あ!」

知らない顔だなと思っていたら、ひとりだけ見覚えのある顔があった。

「まるで喜劇だな」

キラオ先輩だ……!!

「どうします、乗田さん? 他へ移動しますか?」

「いや、ここでいいよ。デブのプレイでも退屈しのぎにはなるだろ」

え……“デブ”? デブってユノのこと……?

ていうか、そういうことを言う人だったの?

美しい容姿とはあまりにも似つかわしくない言葉に、耳を疑う。

「じゃあ、何か飲み物を買ってきますよ!」

「あ~、悪いね。これでキミたちの分も買いなよ」

「え、いいんですか? じゃあ、ありがたく!」

キラオ先輩は財布からお金を出して、偉そうに足を組みなおしている。

なんだか……やな感じ。

あ然としていたら、キラオ先輩の隣にいる男の子がコートを指で差した。

「それにしても……あのデブ、結構やりますねぇ。どんどんシュートを決めてますよ……」

その言葉を聞いて、わたしも試合の様子が気になった。

でも、目を向けようとしたときに、

「点をとっていても醜いものは醜い……バスケってのはさぁ、シューズで摩擦した床の音が美しいんだよ」

という、キラオ先輩の偉そうな声が耳に届く。

「ああ……たしかにあの音はいいっすよね!」

「だけど、あのデブの足音でその音すらも聞こえてこない。ホント最低な喜劇だよ」

聞いていれば、さっきから「喜劇」とか「醜い」って……一体、何様なの。

「あ~あ。またミスした……疲れてきたのかな、あのデブ」

……周りにいる人も嫌な言い方をするけれど。

「ペース配分ってものを知らないんじゃない? ま、だからあんな体型になるんだろうけど」

キラオ先輩の言葉がいちばんキツい。