“あーっ、そうだ! この人もノリタだ!”
“そう! 3年の乗田流星!”
廊下を歩く男の子の写真。
“ノリタリュウセイ?”
盛り上がるふたりについていけなくて、まばたきの数が増えた。
けれど、
“うわっ”
顔を近づけて、ちゃんと画面を見たわたしは、思わず声を漏らす。
“何この人……かっこいい!!”
たぶん、これは隠し撮りか何かでの1枚だろう。映っている男の子は遠くを見ていて、カメラの存在にまったく気づいていない様子。
にしても、目鼻立ち全てが整いすぎている。凛とした立ち姿もまるで貴公子のよう……。
長くて黒い前髪の向こうには、爽やかさと甘さを兼ね備えた瞳。
劣るところが何ひとつ見つからない。
“イケメン俳優だよ”と言われてこの写真を見せられても、わたしはきっと疑わなかっただろう。それくらい万人ウケしそうな美青年。
この1枚だけでわたしの想像はどんどん膨らんだ。
“学園ドラマだったらモテモテの生徒会長の役が合いそうだね……あ、でもクールだから女の子にはまったく興味がないタイプ……”
“ん? 果歩ちゃん、なんの話?”
“あ……マミちゃん、放っておいていいよ。今、この子、妄想モードに入ってるから”
“あのマンガの実写化をしたら、ぜったいタクト役……あー、でもヒジリくんの役でもいい”
“妄想モード? ……ん、じゃあ……続きを言ってもいいかな?”
“どーぞどーぞ”
頭の中で次々と浮かぶイメージ。久しぶりのイケメンに興奮してしまう。
そんなわたしを置いて、マミちゃんは続きを話し出す。
“まさかと思って調べてみたの……そしたら案の定、ピカルンはこの人の妹だったよ!”
“うわ……マジで?”
“うん。ビックリだよね!”
どうやら、しずちゃんはこの男子をよく知っているらしい。
わたしは妄想の世界から戻って、マミちゃんにどんな人なのかを聞いた。
“特別進学科3年、乗田流星。きらめく男って意味で、みんなはキラオ先輩って呼んでる!父親は資産家で母親は元女優。親戚はこの学校の理事だから先生も頭が上がらないし、特進の生徒たちから慕われていて、いちばん権力があると言ってもいいくらいなの”
“キラオ……?”
“有名だよね、この人”
しずちゃんは有名だと言っているけれど、わたしは今日までこの人の存在すら知らなかった。