最近のわたしはこの甲高い声にすぐ反応するようになった。
「ピカルンピカルン! み~んな元気にな~れ!」
下校中に見かけた相撲部の稽古。プレハブ校舎の中、バテて動きが鈍くなった部員たちに、彼女はペンで魔法をかけている。
「ありがとうピカルン!」
「なんだか元気になってきたよ~!」
「チカラがわいてきたぁぁぁ!!」
座りこんでいた部員は疲れが吹っ飛んだというかのように立ち上がり、フラフラしていた部員もまたキビキビ手足を動かしはじめた。
「……」
茶番なやり取りに呆れていると、隣でしずちゃんがつぶやく。
「そのうち、ユノくんもああなるのかなぁ……」
「怖いこと言わないで」
想像しただけでもぞっとする。
あの部員たちのように「ピカルンピカルン」と喜んでいるところなんか見たくない。
「でも、“百発百中だ”って聞いたしさぁ」
しずちゃんはあの話を持ち出してきた。
その言葉でわたしも数時間前を思い出す。
わたしたちは今日、ツインテールの彼女が相撲部では大きな影響力を持つ人だということを知った。
“隊長っ! 情報を入手してまいりましたっ”
お昼休みに突然そばに来たマミちゃんが、まだお弁当を広げたばかりのわたしたちに敬礼のポーズをとってきたの。
午前中はいつもと同じポニーテールだったのに、いつの間にか髪をふたつに分けており、耳の下で三つ編みに編んでいる。視力も悪くないはずなのにメガネまでかけていて。
マミちゃんの外見に気を取られていたら、彼女は胸ポケットから小さなメモ帳を出し、そこに書いてある文章を読み始めた。
“2年C組、乗田ひかる、通称ピカルン。昨年の夏から相撲部マネージャーで、特技は3色ペンを使ったおまじない!”
“え、ノリタ……?”
しずちゃんが聞き返しても、マミちゃんはそのまま話を続ける。
“相撲部の部員は26名なんだけど、その内の22名が彼女の勧誘で入ってる。あとの4名はもともといた人たち!”
“……ノリタって”
“勧誘の腕は百発百中。声をかけられた男子は必ずファンになって入部するらしいよ!”
“ノリタ……ヒカル……”
“ま、簡単に言えば、相撲部のアイドル的存在だね!”
なんの情報かと思ったら……と、気抜けするわたし。
すると、苗字を何度もつぶやいていたしずちゃんが、独り言のように言った。
“なんか聞いたことあるなぁ……ノリタって”
“鋭いねー! さっすがしずちゃん!”
マミちゃんはにんまりと微笑み、ズレてもいないのにメガネの位置を指先で直した。
“わたしも苗字にはビックリした!”
彼女はポケットからスマホを出して、画面をわたしたちに見せてくる。
「ピカルンピカルン! み~んな元気にな~れ!」
下校中に見かけた相撲部の稽古。プレハブ校舎の中、バテて動きが鈍くなった部員たちに、彼女はペンで魔法をかけている。
「ありがとうピカルン!」
「なんだか元気になってきたよ~!」
「チカラがわいてきたぁぁぁ!!」
座りこんでいた部員は疲れが吹っ飛んだというかのように立ち上がり、フラフラしていた部員もまたキビキビ手足を動かしはじめた。
「……」
茶番なやり取りに呆れていると、隣でしずちゃんがつぶやく。
「そのうち、ユノくんもああなるのかなぁ……」
「怖いこと言わないで」
想像しただけでもぞっとする。
あの部員たちのように「ピカルンピカルン」と喜んでいるところなんか見たくない。
「でも、“百発百中だ”って聞いたしさぁ」
しずちゃんはあの話を持ち出してきた。
その言葉でわたしも数時間前を思い出す。
わたしたちは今日、ツインテールの彼女が相撲部では大きな影響力を持つ人だということを知った。
“隊長っ! 情報を入手してまいりましたっ”
お昼休みに突然そばに来たマミちゃんが、まだお弁当を広げたばかりのわたしたちに敬礼のポーズをとってきたの。
午前中はいつもと同じポニーテールだったのに、いつの間にか髪をふたつに分けており、耳の下で三つ編みに編んでいる。視力も悪くないはずなのにメガネまでかけていて。
マミちゃんの外見に気を取られていたら、彼女は胸ポケットから小さなメモ帳を出し、そこに書いてある文章を読み始めた。
“2年C組、乗田ひかる、通称ピカルン。昨年の夏から相撲部マネージャーで、特技は3色ペンを使ったおまじない!”
“え、ノリタ……?”
しずちゃんが聞き返しても、マミちゃんはそのまま話を続ける。
“相撲部の部員は26名なんだけど、その内の22名が彼女の勧誘で入ってる。あとの4名はもともといた人たち!”
“……ノリタって”
“勧誘の腕は百発百中。声をかけられた男子は必ずファンになって入部するらしいよ!”
“ノリタ……ヒカル……”
“ま、簡単に言えば、相撲部のアイドル的存在だね!”
なんの情報かと思ったら……と、気抜けするわたし。
すると、苗字を何度もつぶやいていたしずちゃんが、独り言のように言った。
“なんか聞いたことあるなぁ……ノリタって”
“鋭いねー! さっすがしずちゃん!”
マミちゃんはにんまりと微笑み、ズレてもいないのにメガネの位置を指先で直した。
“わたしも苗字にはビックリした!”
彼女はポケットからスマホを出して、画面をわたしたちに見せてくる。