「湯前く~ん! お昼ご飯、一緒に食べよ?」
「ひ、ひかる先輩……」
「やだなぁ~、“先輩”だなんて。“ピカルン”って呼んで?」
昼休みになると、堂々と教室の中にまで入ってくる。
「なんだ、あれ。オレの特等席が……」
ユノと一緒に食べようとしていた鮎川が、わたしたちのそばで立ち止まる。
「さぁ。仲がいいんじゃない?」
「……どう見ても、ユノくんのほうは迷惑がってるけどね」
「鮎川、こっちで食べなよ」
しずちゃんの言葉をスルーして、鮎川をここに座らせた。
「山咲……機嫌悪いの?」
「ヤキモチよ、ただのヤキモチ」
「ああ……まぁあの人、そこそこ可愛らしいもんな」
「シッ。果歩がまたスネるから!」
……全部、聞こえてますけど。
囁き合うしずちゃんと鮎川にムッとしつつ、ななめ後ろの席にも耳を澄ます。
「ねぇ、考えてくれた?」
「あ……はい。でも……」
「ストップ! ピカルンはOKの返事しか受け取りませんからっ!」
……何がピカルンよ。
「や、でも……」
「湯前くんがうちの部に入ってくれたら、ピカルン嬉しいなっ」
「……んー」
「お願い、湯前くんっ」
「けど、オレ……」
「じゃあ、入りたくなるように、おまじないをしてあげるっ」
はぁ……ユノもユノだよ。
入る気がないなら、きっぱりと断ればいいのに。
「ピカルンピカルン! ピカピカルーン!」
だからなんなの、その呪文は。
「うわぁ……」
「ね、キツいでしょ。ユノくん、朝も同じことされてたの」
「……オレ、ああいうタイプは無理だな」
ほらね、鮎川もドン引きだし、クラスのみんなもあ然としてる。
ふんと鼻で笑って、おかずをもぐもぐ食べた。
すると、おまじないとやらをかけられたユノが、
「ひかる先輩」
真面目な声で話し始める。
「もーっ! だから“ピカルン”って……」
「オレ、部活はしません」
明るいテンションの彼女に、き然とした話し方のユノ。
「ダメッ! ピカルンは“NO”の返事なんか……」
「いえ、部活はしないってもう決めてるんですよ」
言い負かされそうになっても、突き通してる。
いつの間にか、わたしは口を動かすのを止め、その話に聞き入っていた。
「えー」と不満げなツインテールの声。
ユノは少し間を置いてから、続けた。
「オレ……3年のブランクを埋めたいんです」
……ブランク?
「アメリカにいたって話を覚えてますか?」
「あ~……うん」
「オレ……日本を離れる前、大好きな女の子を泣かせてしまって……」