「あの人……相撲部のマネージャーさんだった気がする」
「え?」
「前に言わなかった? 相撲部がユノっちを勧誘してるって話……」
「ああ、聞いた聞いた」
「あのとき声をかけていたのがこの先輩だったはず。今回も勧誘か何かじゃない?」
しずちゃんとマミちゃんが話している間も、静かにユノたちを眺める。
キャピキャピした勢いに押され、ユノは少し困っているみたい。
苦笑いだとわかっていても面白くなかった。
すぐに戻るような気配もないし……。
「……希望、書いてくるね」
「いってらっしゃーい!」
イライラするから、黒板のほうへ向かった。
種目で悩むクラスメイトたちの中に混ざって、余っているチョークに手を伸ばす。
「つかさぁ、スポーツだったら特進クラスに勝てそうじゃね?」
「だな。絶対、アイツらには負けたくねぇ」
そばにいる男子たちの会話。
「ホンット嫌みったらしいヤツらだよなぁ」
「ああ。いつもいつも人を見下しやがって!」
この学校には“特別進学科”というコースが各学年に2クラスずつある。
教室の階もちがうから、普段はその生徒たちと顔を合わせることもないんだけれど……。
部活などで関わりを持つ子たちは、なぜかみんな、特進の生徒たちに不満を持っているみたい。
「卓球にしたの?」
「あ、しずちゃん……うん。どうせジャンケンで負けると思うけど」
様子を見に来た彼女は、ジャンケンという言葉を聞いてプッと笑う。
その反応に口をとがらせた後、もう一度、ドアのほうに目を向けた。
「……」
ユノはまだ、2年の彼女と話していた。
結局、ツインテールの彼女は次の授業が始まる頃まで、この教室から離れなかったの。
そして、それから彼女は毎休憩時間、うちのクラスにやってくるようになった。