その夜、晩ご飯を食べているときも、その声は頭の中を占領していた。

お風呂のシャワー音すら耳に入らないくらい何度も何度も繰り返され、ベッドの上で目をつぶっても眠気すら寄せ付けなかったの。


“もう大丈夫だよ。腕は痛くない?”


あのときは目の前の姿に混乱していたけれど、


“ただいま……マイハニー”


本当にまた逢えたんだ、わたしたち。


◇ ◇ ◇



掛け布団を引き上げ、顔の下半分をおおう。

暗がりで見つめたのは、ポケットがたくさんの壁掛けで飾ったエアメール。


「……おかえりくらい言えばよかったな」


今日のわたしを見て、ユノはどう思ったのだろう。

冷たかった自分を振り返りながら、目を閉じた。


◇ ◇ ◇
翌朝、出かける準備をしていたとき、しずちゃんから「用事で遅刻するから先に行ってて」とメッセージが届いた。

駅の中、わたしは向かいのホームの満員電車にぞっとする。


「うわぁ……」


昨日は入学式で駅にいた時間も遅かったから、ここまでギュウギュウ詰めの電車なんてなかったのにな。

こっち側のホームも次の電車を待つ人は長い列を作っている。うんざりしながらその最後尾に並ぼうとしたとき、


「果歩ちゃん!」


突然、真後ろから声がした。

誰なのかすぐにわかって振り向くと、相手はやっぱり彼だった。


「ユノ……」

「おはよう!」

「お、おはよ」


昨日の態度を反省して、一応、普通に挨拶はしたけれど、顔が引きつってしまう。