奥へ進むと開きっぱなしのドアが見えた。
どうやらそこは脱衣所のようで、近づくと耳に届く声も鮮明になる。
到着して、しずちゃんと顔を見合わせたわたしは、中の様子をそうっとうかがった。
視界に入るのは、浴室のドアに手をつく鮎川の後ろ姿。
「……変な気を回すな。そんなことされても全ッ然、嬉しくねぇから」
わたしたちの気配にはまだ気づいていないようで、彼は刺々しい口調で話し続けている。
変な気を回す? ユノが何かしたの?
声をかけようと思って、一歩だけ足を踏み入れると、脱衣所の床がギシッと音を立てた。
「っ!」
びっくりして振り返る鮎川。
聞かれたくなかったというかのような表情だった。
「果歩ちゃん……松本さんも」
鮎川の向こうにいたユノも、わたしたちに驚いている。
彼はシャツの袖をひじまでまくり、泡立ったスポンジを握りしめていた。
「変な気って……?」
なんのこと?
わたしたちが買い出しに行くまでは鮎川の態度も普通だったから、それからの話なんだよね?
ユノが何かしたの?
「あ……もしかして……」
アイスを買いに行くのが嫌で怒ってる? ジャンケンで勝ったのに、って?
そう考えると、あのタイミングで部屋を飛び出すのも納得がいく……。
「果歩……」
“口を挟まないほうがいい”と言うかのような声。
わたしは止めてくるしずちゃんの目をじっと見つめた。
「困るような話なのかもしれないけど、やっぱり……わたしだけ知らないのは嫌だよ」
そう返してから、すぐ鮎川に視線を戻す。
「外に出るのが嫌なの? それなら、わたしだけでコンビ……」
ひとりで買い出しに行くよ。そう言おうとしていたんだけれど、
「あ……」
言い切る前に、ハッとした。
「鮎川……」
そっか……そういうことか。
鮎川はわたしと行きたくなかったんだ……。
「わたしのことが嫌いなの?」
だから、しずちゃんは“理由を知ったら困るはずだ”って……。
そうか……そうだったんだ。
きっと、ユノは“仲良くさせよう”と思って、ふたりで行かせることにしたんだ。
それで、鮎川は“そんな気を回されても嬉しくない”って……。
「……そっか」
やっと理解した。