そして、部屋の前。
ドアノブに手をかけたとき、中からふたりの話し声がした。
「……でもさ、あんたもう……限界なんじゃない?」
“限界”? しずちゃん、真剣な声だ……。
妙な言葉を耳にして、ドアを開けるタイミングを逃した。
「……別に」
「自分じゃ気づかないのかもしれないけど、あんた……今日、ずっと顔や態度に出してるよ。あの子たちを見てぼうっとしたり、ユノくんに見せつけるような真似をしたり……」
「……」
「果歩は気づいてないみたいだけど、ユノくんは多分、わかってると思う」
何の話?
「このままで……」
「もう放っといてくれよ!」
っ! え……鮎川、怒ってる?
イライラした声にびっくりして、一歩、後ろへ下がった。
中の様子が見えなくても、緊迫した空気が伝わる。
すると突然、ピコポコピコポコと聞きなれない電子音が聞こえてきた。
たぶん、鮎川のスマホだろう。そして鳴らしたのはきっとユノ……。
「アイツ……!」
あ……。
突然、ドアの向こうから足音が聞こえた。それはどんどん大きくなって……。
「っ!!」
やばい、と思った瞬間、勢いよくドアが開いた。
「……」
わたしがいたことに驚いている鮎川。
「あ……えっと、ユノが……鮎川と一緒に……道順送るって」
立ち聞きしていたことがバレて、そわそわする。
あ然とした顔でわたしを見つめていた鮎川は、
「っ……」
眉間にシワを寄せ、そのまま怒った態度で階段を下りていく。