「……行ってきます」

「いってらっしゃい」

しずちゃんに見送られながら、わたしとユノは部屋を出て、玄関へ向かった。

ところが、

「……あ」

突然、ユノは何かを思い出すかのように立ち止まる。

「オレ……風呂の湯をいれておかなきゃいけないんだった!」

「……え」

「ごめん! 道を教えるから鮎川とふたりで行ってくれない?」

何、急に。

なんで、その代わりが鮎川なの……?

「え、でも……」

「そうだ。コンビニまでの道順を鮎川に送っておくよ」

ユノはすぐさまスマホを触り始めた。

「あ、でも待ってるよ? お湯がたまるまで」

風呂の湯なんて、すぐたまるよね?

そう考えていたのに、ユノは、

「……鮎川と行ってきて」

スマホに目を向けたまま、真剣な声で囁いてくるの。

わたしの顔を見ないようにしている気がした。

……意味がわかんない。

「果歩ちゃん、鮎川を呼びにいって。オレ……これを送ったらそのまま風呂場へ行くし」

「……わかった」

言われて、ひとりで部屋まで戻る。

階段をのぼる間もユノの様子が心に引っかかっていて、わたしは何度も立ち止まり、後ろを振り返っていた。