後夜祭に参加しなかったわたしたちは、体育館の裏で少しだけ話をして学校を後にしたの。

そして、向かったのは駅前の喫茶店。

ひとりで宿泊するホテルに帰れないエイミーがその店で待っている。ユノからそう言われ、正直、顔を合わせたくないと思った。

けれど、実際に会うと、彼女はもう嫌な態度をとってこなかった。

むしろ、わたしたちが一緒に現れたことになんの疑問も持ってなさそうだった。

“シューサク、エエオトコ”

彼がレジで支払いをしているとき、エイミーは小声で囁いてきたの。

“ウチ、ウラヤマシ”

ぽつりとつぶやきながら、持っている赤い風船を見上げていた。

そのときの笑顔は切ないもので……。そう感じられるようになったのは、きっと、エイミーにボーイフレンドがいることを知ったからだろう。

◇ ◇ ◇



「こっちは昔の果歩とユノくんだね」

「ん? ……あ」

いつの間にか横に並んでいたしずちゃんが、他の写真立てを手にする。
そこに映っていたのは……。

“果歩ちゃん! もっとこっちにきて!”

“うん!”

“後ろ、うつるかなぁ?”

“たぶん大丈夫!”

あの時のわたしたちだった。

「それ、ユノが引っ越す前に撮った写真だよ」

「へぇー。これってどこ?」

「隣町の菜の花畑」

「ああ。そういえば言ってたね……初めてふたりで遊んだ日、だっけ?」

「……うん。ちゃんと撮れてたんだぁ、菜の花畑……」

最初で最後のデート。

細くてかっこよかったユノと肩を並べ、菜の花畑をバックに撮った1枚。

あの日のわたしは寂しい気持ちを押し殺して、“楽しもう、楽しもう”と頑張っていた。