「恋の駆け引き」

「……駆け引き?」

きょとんとするわたしにクスッと笑みをこぼし、しずちゃんは相手とのやり取りを見せてきた。

『雫ちゃん、オレ、なんか嫌われるようなことしたかな?』

『何もしてないと思うけど。なんで?』

『いや。最近、連絡の数が減った気がして』

『ちょっと忙しいだけだよ』

この前、一緒にダンスパーティーへ行ったという先輩とのメッセージ欄。

「……これがどうしたの?」

何を言おうとしているのかがわからない。

小首を傾げると、しずちゃんは得意げに言う。

「すぐに付き合ったら簡単な女だと思われるでしょ。付き合う前に追いかけさせないと!」

「追いかけさせる?」
「そう。いい感じになってたから向こうはもうその気だったの。だから今は徐々に引いてるところ。引いてみて向こうが諦めかけたら、また押すつもりだけどね」

「……へぇ」

「わたしね……次の恋では絶対に、相手が自分にのめり込むまでは付き合わないって決めてるんだ。だから駆け引き」

ふうん……なんだか難しい。

にしても、

「しずちゃんってさ」

「ん?」

「恋愛になると、結構……人が変わるよね。目が血走ってる……」

普段はサバサバしているから、恋愛に関してもそうだと思ってた。

でも、どうやら違うみたい。

「当たり前でしょ。二度とあんな思いはしたくないし!」

「あ……沢部くんのこと、やっぱ根に持ってる……?」

「持つよ! そりゃあ、持つ! 散々つまらない思いさせられた上、別れるのも向こうからなんて……ホンット悔しい!」

「そ……そうだね」

いつも冷静なしずちゃんがムキーッと腹を立てている。

相当悔しかったんだろうな、あんな別れ方で……。

「でもね、付き合うまでは楽しかったんだよ」
「え?」

「これってもう両思いなのかな? でもまだ片思いのような気もする……って時期があったの、沢部とも。……あの頃は毎日が楽しかった」

「……そうなんだ」

「沢部には駆け引きなんてしてなかったけれど、それでも今みたいにワクワクしてたよ」

「しずちゃん……」

「それを思い出すと、付き合ったことは後悔しちゃだめだなぁって思う」

初めて聞けた気がする。しずちゃんの本音。