「先ほどご案内いたしましたご令嬢もとても町が綺麗だと言っていました。他からきた人に褒められると嬉しいですね」

「先ほどの令嬢は貴族だよな? どこから来たかわかる?」

「そこまでは聞きませんでしたが、家に帰る途中に寄った。と言っておりました。所作からして貴族だと私も思います」

「……そうか」

 名前までは分からないが、家に帰る途中という事はここから先の領地へ? って広すぎる! 年齢から見るとさほど変わらないような気がするからもしかしたら、学園で会えるかもしれないな……


 国内の貴族は十五歳から三年間貴族学園に通う事になる。今後の社交において、縦のつながり、横の繋がりを学ぶため。貴族と聞くと優雅な生活をしていると思われがちだが、足の引っ張り合いも多い。

 将来的には国の中枢を担うのだから学園というのは貴族社会の縮小版であり、ここで成果が出せないようなら将来性が問われるとまで言われている。

 学園へ通う頃までに、礼儀作法などのマナーを覚えさせられる。そこでようやく社交界へのデビューとなる。

 楽しみでもあり恐怖も付き纏う。昨日の友は今日の敵と言う諺もあるくらいだ。貴族社会とはそういうものなのだ。

 領地にいると気が楽で領民に混ざってこのように掃除をしたり花を植えたりする事が許され、好きなことをして尊敬までされるのだから一石二鳥だと思う。

 王都の社交は面倒だし、王都に良い思い出はないから。


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「え? 馬車の車輪が不具合?」

「そうなのよ。修理は明日になるそうだから、もう一泊しようと思うの」


 車輪の一部が変形したようで、部品交換をする事になったみたい。車輪の不具合はよくある事だし、もう一日この町にいられるなんてなんだか得した気分だわ。


「お母様明日も少し出かけても良いですか?」

「良いわよ。そのかわり遠くへ行ったり護衛に迷惑かけたりしてはいけませんからね!」

 失礼なお母様だ事……


「分かっています! リューはどうする?」

 少しくらいなら歩き回っても問題ないと思うけど、空気も良いし……でも無理にとは言えない。

「今読んでいる本が面白いから、遠慮しておくよ。姉様楽しんできてね、何かあったらお土産よろしくね」


「えぇ、分かったわ」

 お土産か……探すのも楽しそうだわ!