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 会場はすでに多くの出席者で溢れていた。
 彩り豊かな女性陣のドレスを目にすると、シャノンはまるで花畑の真ん中にいるような錯覚に陥る。
 
「ねえ、あの方がもしや」
「そうよ。ヴァレンティーノ家の次期……」
「闇夜の一族の、覇王……」
「当主様も端正なお顔立ちだけれど、あの方も相当よ」
「ええ、予想外ですわ」
「ああ、なんて」

「「――惚れ惚れするほど麗しい御方なの!」」

 会場中の女性たちの視線がすべて集中しているような、重々しく色を含ませた視線。シャノンは気づかれないように口端をひくつかせた。
 しかし、ルロウは一切気にした様子なく涼しい顔をしている。

 畏怖の対象であるヴァレンティーノだが、ルロウのように美貌に優れた男を前にした女性陣の反応は素直なものだった。
 我先にと声をかけようと動く気配がする。
 
(このままだとわたし、潰されちゃいそう)

 身の危機を感じとったシャノンは、ルロウから離れて壁の花になるべく後退る。
 だが、ルロウはそれを許さなかった。

「おまえの場所は、ここだ」

 女性たちがルロウ目掛けて足を進めた瞬間、シャノンの体はすっぽりとルロウの腕の中に収まっていた。

(また……!!)

 さすがにこの場で声を上げることは躊躇われ、シャノンは思い切りルロウを凝視することで対抗する。が、ルロウにはちっともきかず何処吹く風だった。

(どうしてわたしを抱えるのっ)

 シャノンは一人で焦っているが、傍から見た二人は年の離れた兄妹に見えなくもない。シャノンの年齢を知らないままなら、そこまで驚愕するような光景でもないのである。

 その証拠に、ルロウの元に一番乗りでやって来た令嬢からは、

「初めてお目にかかります、ルロウ・ヴァレンティーノ様。……そちらのお嬢様は、ご兄妹ですか?」

 という質問がされた。

「そちらの珍しい衣服は、西華国のものですわよね。細やかな刺繍がお揃いで、とても素敵ですわ」

 本日のシャノンのドレスは、形は帝国の流行りを押さえてはいるが、柄は全く異なっていた。
 帝国貴族の子女がまず着ることはない華衣の刺繍や飾りをふんだんに取り入れた、ハオ傑作のドレスなのである。

 そしてルロウはというと、皇城主催の夜会にも関わらず、耽美な華衣で全身を揃えていた。
 この会場で華衣を身に纏うのはルロウだけ。けれど持ち前の風貌と艶やかな衣装を合わせれば、それは決して異質ではなく誰もが目を惹く特別なものとして多くの目に映った。

 衣装がお揃いに見えるからか、毛色は違くとも余計にルロウとシャノンは兄妹に見えてしまうのだろう。