「えっ、ねえ見てなぎちゃん!」
目の前でスマホとにらめっこしていた芙実ちゃんが、突然声を上げる。
驚いて芙実ちゃんが小さく指さすほうを見ると。
「三滝先輩だ。ウエイトレスの恰好だし、先輩もここでバイトしてるのかなあ」
三年生で一番かわいい、あの三滝先輩。
聖里くんを笑顔で見上げて、楽し気に話してる。
……近くないですか、距離。
あれで男に興味ないって……信じられないよ。
じっと目が離せなくなっていたら、三滝先輩がちらっとこっちを見た……気がした。
「いやあ、マジでかわいいなあ」
「……うん」
「あれ? なぎちゃん、ご機嫌ななめ?」
そんなことないよ。
一瞬、気分が沈んだだけだよ。
……今日、わたしにバイトのことだって隠してたんだし、実は彼女がいることを隠してたって、おかしくない。
彼女がいるのにわたしと添い寝したり、キスマークつけたりするような人だって思いたくないから、自然とその疑惑は脳が拒絶していたものだけど。
うつむいて考え事をしていたら、芙実ちゃんが「え、なんかこっち来てない?」と口に出した。
こっち来てる……?
わたしが振り向くより先に、その人物はわたしたちの机に到着したようだった。