「っ……もういこ……」
足並みそろえてバタバタと走り去ってしまった。
すべて言い切った松野くんは、「ふう」と息をついてわたしのほうに向き直ってしゃがむ。
「立てる? 折田」
「あ、うん……」
ゆっくり立ち上がってスカートのプリーツをぱたぱたはたいて直す。
「すっきりしたあ」
「……怒ってたの? 松野くん」
「うん。ちなみに、折田にも怒ってる」
「えっ、なん……っ」
パッと顔をあげたら、松野くんが口角だけあげて目は笑ってない状態で、わたしのことを見下ろしていた。
……なんか、命が終わるくらいの寒気したんだけど。今。
「こういうのさ、呼び出されたら普通ほいほいついてかないよ」
「……ごめんなさい」
「自分が危ない目に遭うかもって考えなかった?」
「ちょっとだけ……」
さっきの女子と形勢逆転。
今度はわたしが怒られています。
……でも、たぶん、これは愛のある説教だよね?
「……はあ、まあ無事でよかった。それにしたって、わざわざ聖里がいない時を狙って呼び出すの悪質だね、あいつら」
「あ、そういうこと」
「え? なに、まさか気づいてなかったの?」
一切気づきませんでした……。
合わせる顔がなくて俯いていると、本日何度目かのため息が降ってきた。
「とりあえず、聖里には言わないほうがいいかも、今日のことは」
「うん」
「なにしでかすかわかんないからなー、あいつ」
「……なに、怖い」
「うん、まじこわいよ。周り見えなくなんだから」
……よくわからないけど、聖里くんは怒らせちゃダメってことね。
いいこと聞いた。
「高坂も心配してたし、はやく帰ってあげたら?」
「あ、うん、そうする」
松野くんに背を向けたあとで、お礼を言ってないことに気づいて振り返る。
「その、ありがとう」
「ん? うん、いいよ」
「……じゃあ、またね」
まさか松野くんに助けてもらえるとは思わなかったなあ。
教室への帰り道、廊下の窓から、雨がぽつぽつと降りだしているのが見えた。