「ふ、くだらないですわね。ドラゴンなぞ、所詮野蛮な野生動物。痛みでどちらが上か解らせることも必要ですわ」  

やっぱり、リリアナさんは最初から話を聴いてはくれない。
とはいえ、これが貴族の共通的な認識だろう。
都会では竜騎士の扱う騎竜以外、めったにドラゴンを見かけない。今や移動は馬と馬車に取って代わられている。ならば、ドラゴンは馬よりデカいだけのただの野生動物と考えてもおかしくはない。直に接する機会がないのだから、理解できるはずもないんだ。

(仕方ない…少し離れた場所から見守って…危なくなったら助けよう)

こんな時のために、と念のためバーミリオンを待機させてある。

カリンさんが連れてきたヤークにリリアナさんが素早く竜具を装着する。この辺りはさすが長年乗馬をしてるだけある。

だけど、鞍を装着する時に腹帯(はらおび・鞍を固定するベルト)の具合を確かめる際、彼女は無意識にか真後ろに回っていた。

(……ヤバい!)

「ブウッ!」
「危ない!」
「きゃっ!?」

咄嗟に彼女に飛びかかりその場で押し倒すと、ヤークの後ろ脚を使った蹴りが、頭をギリギリかすめていった。

「リリアナ様!」
「大丈夫ですか!?」

ふう、と安堵の息を吐くと、いきなりリリアナさんに突き飛ばされた。

「いきなりなにをなさいますの!?穢らわしい!」
「ヤークの真後ろに立つからです!ヤークは体の真後ろは見えないから、最大限の警戒心を抱かれてあんなふうに蹴られてしまうんです!下手したら死んじゃいますよ?気をつけてください」