「……ダメ、かな……?」


その囁くような小さな声に心臓が跳ねた。


聞き間違いなんかじゃない!


ゴキュ……


ぎゃっ、どうか唾を飲み込んだ音が壱樹に届いていませんように!


「キ、ス……」

「うん」

「したい、の? 私と……」


頭が痺れてしまって何も考えられないのに、自然と口が動く。


大胆なことを聞き返す自分が信じられなかった。


「うん、したい、彩葉と」


きゃー、生まれてきてよかったー!


全身が脈を打つ。


「私も壱樹とキスしたい……」


壱樹の吐息が聞こえた。


耳に温かい息がかかった気がした。


くすぐったくて、スマホを握る手に力が入る。


「じゃあ、またデートのときに……」

「うん……またね」


通話が終了したあとも、スマホを耳に当てたままでいた。


心臓の音が聞こえていた。