私と彩空は、夏祭りを全力で楽しめた。
綿あめも食べたしりんご飴も食べた。
射的では彩空が1等賞当てて、
私に大きなぬいぐるみを
プレゼントしてくれた。
あと、お面をお揃いで買った。
もう、こんな幸せな時間は
二度とないと思えるくらい、
幸せで、幸せで、仕方なかった。
「もうそろそろ始まるよっ、花火!」
「特等席だな、ここ」
私たちは、屋台から少し離れた
展望台の上で、
2人きりで花火を見ることにした。
ほんと、特等席。花火も良く見えそうだ。
「……そーいえば、言い忘れてたけど」
彩空の言葉に、空を見上げていた顔を
彩空に向ける。
「浴衣、めっちゃ似合ってる」
「!……ふふっ、ありがとう。
彩空もカッコイイ。
もう世界一カッコイイよ!」
「はいはいどーも」
自然と私たちは手を繋ぎ、花火を待つ。
そして、開始前のアナウンスが流れた。
3、2、1……。
細い線が、ヒュルルルッと上がっていく。
そして、一瞬消えたと思ったら
次の瞬間、綺麗な空に
彩やかで大きな花を咲かせた。
「っ、きれい……」
ぽつり、と言葉と共に、涙が頬を伝った。
──あぁ…思い出してしまった。
「……彩空」
「……」
「ね、こっち向いて」
こちらに視線を向けた彩空の瞳にも、
一筋の涙が伝っていた。
そういう、ことだったんだね。
だから彩空は、
私が花火大会に
行ってほしくなかったんだ。
「私は2年前、花火大会のあと──死んだ」
2年前、あれが私と彩空の最後だった。
「だからかぁ。去年からの記憶、
そういえば夏休みの記憶しかないや。
春も秋も冬も、私はいなかった。
夏だけ、彩空のそばにいられた。
でも、死んだって気づいた今、
私は来年から……彩空にはもう、
会えなくなる」
多分、成仏して、消えて、そしてまた、
生まれ変わって、彩空に会いに行く。
「行くなっ……嫌だ、
鈴花が居なくなるなんて無理だっ……。
そばにいろ……俺から離れるなよっ」
いつも冷静な彩空が、
こんなにも感情を表に出して
伝えてくれることが、
嬉しいと思う同時に、
一緒にいられないことが悲しい。
悲しい。
「私もっ……そばにいたいっ」
私が涙を流しながらそう言うと、
彩空は私を抱きしめた。
「……ねぇ、そういえば私たち、
告白してなかったよね」
「あぁ……そういえばそうかもな」
「今、していい?」
「っ、いや……俺がする」
体が少しずつ消えていく。
でも不思議と、少しだけ悲しみが薄れた。
だって、彩空の告白が聞けるんだもの。
後悔なんてない。
彩空は乱暴に涙を拭うと、
花火より綺麗な笑顔を向けてくれた。
「俺の世界を、彩やかに、
花やかにしてくれて、ありがとう。
ずっと前から好きでした。
それで、これからもこの先も、
ずっと、ずっと、大好きです」
彩空が頭を下げ、右手を差し出してきた。
「俺と、付き合ってください」
あぁ……幸せだな。
ずっとそばにいたいなぁ……。
「こんな私で……っ、よければ」
彩空は私の腕を引くと、キスを落とした。
花火の音と同じくらい、
心臓がうるさい。でも、心地いい。
「彩空、好き。大好きっ……ありがとう」
「俺も。また会えてよかった。
来世もまた、俺の恋人になれよ。絶対」
「っ、うんっ……」
幸せに包まれながら、
私は彩やかな花火が咲く、
綺麗な空に溶けて行った。
世界で1番、彩空を愛してるよ…───