「雨宮さん、もう帰っちゃうの? 相手は雨宮さんしかいないって、俺は思ってるんだけど?」


 教室の後ろの入口から、聞き覚えのある声が私に話しかけてきた。私は声がするほうに振り返る。すると、そこには、息を切らして走ってきたであろう湯浅先輩が、ドアにもたれて立っていた。

「湯浅先輩……!」

「後夜祭は参加しないの?」

「……すみません、あんまりそういうの好きじゃなくて」

 だけど、そうは言いつつも、さっきの湯浅先輩の言葉が引っ掛かる。


【相手は雨宮さんしかいないって、俺は思ってるんだけど?】


(何の相手……?)

 私の脳内には、いくつもの「?」が浮かんでいる。
 そもそも、私なんかをわざわざ探してここまで来てくれたことにも驚きを隠せない。
 そして、そんな湯浅先輩と距離を取ったまま、無言で見つめ合ってしまい、視線を逸らせなくなってしまった。