「そういえば、耳……。耳たぶにキラッとしたものが付いてました!ピアスだとは思うんですけど、ちっちゃいダイヤみたいなので。男性ではあまり見ないなって思ったから印象に残ってて」


前言撤回。


伊藤くんは大手柄だ。


小さなダイヤの一粒ピアスを付けている男と言えば(アイツ)しかない。


あの時お嬢に〝またね〟なんて声をかけていたから嫌な予感はしていたが、早速接触してくるなんて俺も迂闊(うかつ)だった。


「でかした伊藤くん!君最高すぎるよありがとう!」


伊藤くんの両肩に手を置き感謝を伝えた。


この短時間で伊藤くんの好感度は爆上がりだ。


そうと分かればお嬢の居場所はおそらく匠の家に違いない。とにかくどうにかアイツに連絡を取って……。


すると家で待機している犬飼から着信が入った。


「もしもし?」 


『要さん!お嬢と連絡取れました!』


知らせを聞いた瞬間、全身の力が抜けていくのを感じた。


——無事でよかった……。


ただそれだけだ。


「愛華と連絡取れたって。引き止めてごめんな!」


そう言って俺は伊藤くんに頭を下げた。


家まで送って行くと言ったが彼はまだ用事があるみたいでそれは断られる。


まぁ、俺と車内で2人きりというのもなかなか気まずいだろう。


俺は急いで車に戻ろうとした。


「・・・あの!僕、お2人のこと応援してますから!」


後ろから伊藤くんの叫ぶような声が聞こえて足を止める。


本当は否定しなければならない。


違うんだよ、お嬢はただの家族なんだ、君は勘違いしている、と。


でもその時の俺はなんだか頭がボーッとしていて、「なぜ否定しなきゃならないのか?」「だいたいなぜ俺は自分の気持ちを隠さなきゃならないのか?」と自分で自分に逆ギレしていた。


雨に打たれたせいで頭がおかしくなっていたのかもしれない。


せめてこれくらいは許してほしいという思いで、「ありがとな!」と返した。


伊藤くんが言ったことに否定も訂正もしなかった。


俺の返事を聞いた伊藤くんはなぜかとてもスッキリした顔をしていた。