何度目かの訴えはやっと受け入れられて、保健室の椅子に座りながら話す権利を獲得した。


「風花ちゃん、コーヒーでも飲む?」

「いえ、私コーヒー飲めなくて」

「そっか。ごめんね、ここにはコーヒーしかなくて。今度、紅茶とかも持ってこよう」


 八雲くんは、手慣れた様子で棚からインスタントコーヒーを取り出してポットでお湯を沸かし、注いでいく。

 ここは八雲くんの家だっけ? と錯覚しそうになった。

 椅子に座ってコーヒーを飲んでいるだけなのに絵になるのは、きっと所作のひとつひとつが綺麗だからだ。
 ふぅ、と息をついた八雲くんは私に視線を移す。


「あらためて。僕のパートナーになってもらえるかな、辻村風花ちゃん」


 退学にはなりたくない。
 でも吸血鬼に血を飲まれたくはない。
 なぜなら『純潔』の稀血を飲んだ吸血鬼は、正気を失い対象の血を飲み干し殺すから。

 それほどまでに、甘すぎる毒だ。

 ……なのに、八雲くんは『純潔』の血を飲んでも暴走まではしなかった。

 今だって、平然としている。
 この吸血鬼を頼っても、信じても、良いのだろうか。

 ──私は今日二度目の覚悟を決めた。


「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 八雲くんは嬉しそうな表情を浮かべた後、咳をひとつして眉を寄せた。


「すごく、それはもう、ものすごく不服だけど。もう一人、風花ちゃんのパートナーにしてほしい奴がいるんだ」

「もう一人、ですか?」

「うん。僕の友達なんだけど、あいつもまだパートナーが居なくてね。潔癖というか、吸血鬼のくせに血の匂いが苦手なんだ。きっとあいつなら、血を飲まない条件をのんでくれるよ」


 そこまで聞いて、私はあれ? と違和感に襲われる。

 八雲くんの友達で、なおかつまだパートナーが居ないなんて、一人しか思い浮かばない。