カランカラン。
店に入ると、いつものコーヒーの良い匂いが私の鼻へ届く。
「おかえり。」
入ってきた私を見て、おばさんはにっこり。
『ただいま。』
いつも座っているカウンターの席に腰掛けた。
店内に、夕方は静かなベルの音楽が流れる。
もう少し外が暗くなるとジャズが流れ出す。
居心地の良いこの場所では勉強もよりはかどった。
『……おばさん。』
カウンターごしにおばさんに話しかける。
「なぁに?」
『本当に…ごめんなさい。高校に行かしてもらうこと………』
私は真面目に言うと
おばさんは困ったように笑った。
「あさ美ちゃんはそんなこと何も謝らなくていいの!それにね、姉ちゃんの貯金があるのよ。政之さんに言ったら使われるだろうから、きっと内緒で貯めてたのね。あさ美ちゃんのために。」
それを聞いて私は驚いた。
貧しい生活の中を切り詰めて、母は私の将来のために貯金していてくれたのだ。