「あさ美ちゃん、色々事情があって綾子さんと暮らしてるって言ってたじゃん…?」
送ってもらっている道のりの途中
裕平くんが言う。
『うん…。』
「聞かれたくないことだったらごめん。………あさ美ちゃんの……ご両親は?」
ドクン、と心臓が響いた。
母が死んでいた、あの晩のことを思い出す。
『…………』
黙りこむ私に裕平くんは気を使って
「ごめん、答えたくなかったらいいんだ。ごめんね。」
と言った。
だけど、私が飲み込もうとしている言葉は紛れのない事実で
そのことに一番深く関わっていた人物は私自身なのだ。
『…両親は…いないの。』
小さくそう発した私の声に裕平くんは少し驚いた。
「…そうなんだ……。ごめん。」
私は首を振って、少し無理して笑ってみせた。
裕平くんは、きっと本当のことを話しても
私から遠ざかったりはしない人だろう。
人柄からいうと、裕平くんはどこか陸と同じような雰囲気を持っているから。