『うん、食べる。』
私はシャーペンを持つ手を止め、
ベッドに腰掛けた。
母はその隣に座り、
私に林檎を渡す。
「あさ美、焦って勉強しなくても大丈夫なのよ?」
林檎を一口かじると
良い歯ごたえと一緒に甘酸っぱい果汁が口の中に広がった。
『焦ってるわけじゃないよ。』
「そう。ならいいんだけど…お母さんはあさ美が学校に行ってないこと、責めたりしないからね。」
優しく笑う母の顔は、幼かった頃となにも変わっていなかった。
『どうして行きたくないか、理由聞かないの?』
「あさ美が話したかったら話してごらん。お母さんは無理に聞こうなんて思ってないよ。」
『それが、私にもよくわからないの。言葉にできない。』
私が俯くと
母はそっか、と笑って私が手に持つ器から林檎を1つ取り、口に入れた。