誰もいない静かな教室には
グラウンドに駆け巡る部活の声が聞こえていた。
陸は少し立ち上がり、私に顔を近づけた。
これがキスというものだということくらいは、
恋愛経験・青春経験ゼロの私にも分かる。
唇と唇が触れるとは
こういう感覚なのだと知った。
目を閉じることを忘れて、
いつのまにか“キス”は終わっていた。
「帰ろっか。」
陸が鞄を持ったので、私もそのあとをついていく。
帰り道、
陸と手を繋いだ。
何度か握りしめられたことのある手でも
恋人繋ぎは違う感覚だった。
私、今“普通”を生きている気がする。
たくさんの悲しみを越えて、母が用意してくれていた喜びというプレゼントのような気がした。