久々に父というものの存在を感じたにもかかわらず
父の姿を見るのはおそらく最後になるだろう。
それは私が父を自分の親として愛していることの小さな驚きと母を殺したことへの絶え間ない恨みから
生み出されたたった一つの決意。
私は私を生きてゆく。
母を思い、胸に抱き。
他に何も言葉を発することができない代わりに、最後に父の顔をよく見た。
涙で濡れた髭は父に対して親子の間にしか見いだされない何かを感じさせた。
眉を下げ、止まらない涙をこらえながら
少しだけ笑ってくれた。
人はどうして人を愛すのだろう?
どうして憎む?
どうして試す?
どうして許す?
外に出ると、出入り口のすぐそばに綾子おばさんが待っていてくれた。
降り出した小雨と似たように、
なぜか私も泣き出してしまった。
何か、胸の中に小さな愛を抱えながら。