ハルカはジッと夕焼けに満ちた街を眺める。その綺麗な横顔に見惚れてしまった。
勢いで会話はしたが、やっぱりアイドルの為顔立ちがいい。
「あ、そういえば」
急に私の方を向いてきた為驚いた。思わず私は顔を逸らす。
「え、何」
「い、いや...その...」
「まぁいいや。お前ってカナトにガチ恋してるタイプ?」
「えぇっ!?」
ガチ恋...ガチの恋愛感情を推しに抱いているかどうか...。私はカナトをファンとして応援している。ファンとして好き。でもきっと推しへの好きと恋愛の好きは...紙一重だ。
「カナトは私を救ってくれたヒーローだから...。感謝の気持ちが1番大きくて、ファンとしてずっと応援していきたいと思ってます。でももしカナトと両想いになれるコトがあればその時は...その...」
言いながら顔が赤くなるのを感じた。私とカナトが両想いになるなんてありえない。それでも付き合うコトができたら毎日が幸せだろう。
「なるほどな。まぁガチ恋になったとしても諦めな!カナトに恋愛の視線を向けたら俺がガードする!」
自信満々に言い放つハルカに目が点になる。
「な、なんて...?」
「実際居たんだよな...こいつ絶対ガチ恋だろってやつ...出待ちして無闇に接触してこようとしたヤツ...そいつはスタッフにすぐ伝えて厳重注意。顔は覚えたから次やったら絶対出禁にする。あと、一回共演しただけで仲良くなった気になって言い寄ってくるモデルもいたな。カナトは女の下心に気づかないタイプだから危ないんだよな。まぁ俺がカナトと話し続けて、そのモデルが近づけないようにしたから良いけどな。あと...」
ボソボソとカナトを恋愛的な目で見てきた人への対応を言い続けるハルカ。その時、彼の周りを闇が覆っているのが見えた気がした。
「ハ...ハルカ...?」
「え?あぁ、わりぃ!とにかくカナトへの恋愛禁止令を今ここに出す!」
「あの、ハルカナって別に恋愛禁止とは言ってないですよね...?」
「まぁな。でもカナトと付き合うなら、俺が認めた人じゃないとダメだ」
「それってカナト自身も思ってるんですか...?」
「いや、俺が勝手に思ってるだけだ。そもそもあいつと知り合う人は陰で俺がオーディションして合格した人だけにしたいくらいなんだ。あいつは何も知らずに、良い人とだけ知り合って、あいつに悪い影響を与えるヤツは知り合う前に俺が潰したい...」
思っていた以上にハルカのカナトへの思いは大きかった。数分前に張り合っていた私だが、思わずその気持ちの大きさに慄く。
「もしガチ恋になったら俺に認められる人になるコト!まぁ真っ直ぐ応援してくれるならそれほど嬉しいコトはないけどな!」
「は、はぁ...」
カナトの相方はまるで番犬のようにカナトを守っていた。私の気持ちはどうなるか分からないが、仮にガチ恋になったら大変そうだと思った。
「カナトのファンで居てくれてありがとう。これからも応援してくれ」
「それはもちろん!」
「うん。またライブとか来てくれたら嬉しい。じゃあな」
手を振って歩いていくハルカ。
「もちろん行きます!昨日も楽しかったです!ありがとう」
「おう!楽しんでくれたなら良かった!あっ、そういえば君の名前は?」
立ち止まって、私の返答を待ってくれるハルカに私は大きく叫ぶ。
「玲那です!月城玲那!」
「また会おうな!玲那」
名前を呼び捨てで呼ばれたコトでまた胸がドキドキする。
急に現れたアイドル。そして思いがけず何気ない話が出来た時間。色んな予想外が起こった現実に頭が回りそうになる。
カナトへの恋愛禁止令なんて驚くコトも言われたが、それでも楽しい時間だった。私は笑顔のまま、夕焼けに染まる帰り道を歩いていった。