「全体的にこんな曲にしたいってイメージはありますか?」
「...応援してくれてる人が元気になって貰える曲にしたいなぁ」
私もカナトの曲を作るなら、聴いた時に元気になれるような曲が良いと思っていた。
「スゴく良いと思います。ファンの人を応援する曲を作るというコトで良いですか?」
「うん。泣いたり落ち込んだりしても良いんだよって言いたい。凹んだ分だけ、いつの日か笑えたら良いと思うんだ」
やっぱり優しい人だと思った。ただ元気づけるだけじゃない。弱い部分も受け入れた上で、背中を優しく押してくれる。そんな温かい存在がカナトだった。
「スゴく素敵な想いですね。カナトのそういう優しい所を皆好きになるんだと思います」
「...うん...」
「カナト?」
カナトはふっと淋しい瞳をした後、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「僕のために人生の大切な時間を使ってくれてるんだから、皆には楽しい時間を過ごしてもらいたいって思うんだ」
いつも見る、いつもの優しい顔。私はさっきの淋しい顔は胸にしまいこみ、笑顔を見せる。
「本当にファンを大切にしてくれてるんですね」
「うん。ファンが居てくれないと僕たちは活動できないからね」
そう言ってカナトはカフェラテを口に運ぶ。ほっと息を吐く瞬間さえカッコよく見えた。
「ライブで皆の笑顔を見れた時とか、握手会で楽しそうに話してくれる姿を見れた時とか本当に嬉しいんだ」
「カナトの対応にファンはいつも喜んでますよ!」
「対応?」
「はい!ライブで感謝を伝えてくれたり、握手会で真っ直ぐファンを見て話を聞いてくれたり...カナトがファンを大切にしてくれてるって分かる瞬間がスゴく嬉しいんです」
「そっか...。そう思ってくれてるなら嬉しいな」
推しの行動にファンは喜んで、ファンの喜びに推しは喜んでくれる。そんな理想的な推しとファンの関係が築かれているのがカナトとファンだった。
「...本当夢みたいだ」
「え?」
「あ、いや、ごめんなさい!なんでもないです」
ただのファンだった私が、今目の前にいるカナトと曲についての話をしているなんて夢物語のようだ。でもそれを伝えたら私はファンに戻ってしまう。今この時間だけは作曲者としての私という形を崩してはいけないと思った。
「...あの、ファンに伝えたいコトとかありますか?」
「そうだなぁ...。毎日沢山辛いコトとかあると思う。でも僕たちを見てる時だけでも楽しい時間を過ごして欲しい。皆が幸せな時間を過ごせるように頑張るよって伝えたいかな」
「そのままカナトのファン全員に伝えたいくらい素敵な言葉です!ありがとうございます」
「ふふっ。ありがとう」
どこまでも温かいカナトの言葉だった。彼の優しい想いを曲にして沢山の人に届けたいと思った。
「Reiさんは歌詞ってどうやって考えてるの?」
「あ、えっと、大体のテーマを決めて、頭の中に浮かんできた言葉やストーリーを歌詞に落とし込んで作ってます」
「そうなんだ。今日の僕との話で歌詞作れそう?」
「はい!カナトの貴重な想いを聞けて嬉しかったし、それを曲にしたいって思いました」
「それなら良かった」
「カナトにとって大切だと思える曲になるよう、精一杯作ります!」
「うん!楽しみにしてるね」
「はい。ありがとうございます!」
お礼を言いつつ、私の心には引っ掛かっているコトがあった。それを聞こうか否か迷っていたが、カナトの温かい顔を見ていたら言えなかった。さっきの淋しい表情をして欲しくなかった。
「それじゃあ今日はこれくらいで良いかな?」
「あ、はい!」
「また何か聞きたいコトがあったら事務所に連絡してね。すぐに都合合わせて話す時間作るから」
「ありがとうございます!」
そうして私たちはお店を出て、それぞれ帰路についた。