何処に行こうか悩むコトすら出来なかった。
何も考えられなかった。ただひたすら歩き続けた。
上を見上げると綺麗な夕陽が見えた。
「...綺麗」
小さく、そう呟き、私は近くの高台へと向かい始めた。
空に近づきたかった。父が居る空に近づきたかった。
高台に着くと、そこには先客がいた。
1人になりたかった為、別の場所に行こうかと思った時、歌声が聴こえてきた。
男の人がギターを弾きながら歌っている。
彼が歌っていたのは父が作った曲だった。優しく、優しく歌い上げる彼の歌声を聴いていたら涙が溢れた。
泣いている私を見て、彼は驚いた顔をした後、優しく微笑む。
「良かったら僕の歌を聴いていってください。今ここにいるのは君だけだから、君の為に歌うよ」
温かい声でそう言ってくれた。
「...はい」
彼は私に笑顔を向け、また歌い出す。
父の曲が私の心に響く。父はいなくなった。でも父の曲、父が居た証は今も、これからも残り続けるのだと分かった。
歌い終わった彼は一息つき、私に話しかける。
「聴いてくれてありがとう。僕、この曲スゴく好きなんだけど聴いたコトあるかな?」
「...聴いたコトあります」
聴いたコトがないわけがない。だって私のお父さんが作った曲だから...。
「スゴく素敵な曲だよね。『泣きたい時は泣いていいよ。その涙が悲しみを流すから』って歌詞が大好きなんだ」
前も聴いていた。でも今彼が言った歌詞が、前よりもずっと心に響いてきた。
あぁ、溢れる...。
私は泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。
泣いている私に、彼は静かに話しかける。
「どうして泣いてるの...?」
どうして...?お父さんが死んでしまった。一人になってしまった。だから私は...。
「...生きる理由が分からなくなりました...」
いきなりこんなコトを言われても困るだけだ。
それは分かっているのに、他の言葉は見つからなかった。
私は目の前にいる人の顔を見るコトが出来なかった。
「...そっか...」
ボソッとそう言われる。初対面の人にこんな悲しい気持ちを溢すなんてどうかしてる。早くサヨナラしよう。
そう思った矢先に明るい声が響いた。
「じゃあさ、何かやりたいコトはある?」
「え?」
顔を上げると彼は満面の笑みをしていた。
「やりたい...コト?」
「明日やるテレビを見たいとか、来月発売される漫画を読みたいとかそんな簡単なコトで良いんだ。これからしたいなぁって思ってるコトはある?」
私がこれからやりたいコト...。
『玲那の曲が聴けるの楽しみだな』
その時父の言葉が頭に浮かんだ。
「...曲を...作りたい...」
父が楽しみにしてくれて、私が聴かせたいって思える曲を作りたい。
「わぁ!曲作るんだ!スゴいね!」
あまりにもキラキラした顔で言われ、私は思わず慄く。
「えっ...」
「やっぱり曲は良いよね!色んな想いを乗せられる。それにどんなに遠くに離れてても、会えなくても、音楽だったら聴いてもらえる」
「会え...なくても...?」
「うん!音は何処にいる人とも繋いでくれるって思うよ」
何処にいる人とも...空にいるお父さんとも繋いでくれる...?曲を作ったらお父さんも聴いてくれるかな...。
「...空に...いるんです...聴かせたい人が...。聴いてくれると思いますか...?」
「...音楽は空にだって届くよ。絶対、聴いてくれる」
私を真っ直ぐ見て、そう言ってくれる。
ただ私を元気づかせる為に言った言葉だろう。それでも真っ直ぐ私を見て言ってくれた彼の言葉を信じたいと思った。
「ありがとう...。やっぱり私...聴かせたい...。それに好きです...曲を作るの...」
「好きなコト、やりたいコトがあれば大丈夫だよ」
彼は私の頭を優しく撫でる。
「生きる理由って見つけるの難しいよね。でもやりたいコトがある。それをやるまでは死ねないなぁって思うと生きられるんじゃないかなって思うんだ」
あぁ...確かに...。
彼の言葉を聞いて、私の心が和らいだのを感じた。
「死ねない理由を積み重ねて、生きたら良いんじゃないかな」
今は曲を作りたい。そしてこの先で他にも何かやりたいコトと出逢えたら、それも死ねない理由になる。そのやりたいコトも特別なコトじゃなくて良い、簡単なコトで良いんだよね。
私はまた涙を流す。でも悲しい顔ではなく、笑顔で私は泣いていた。
「そっか...そっか...」
「また悲しみに囚われそうになったら、今日のコトを思い出して。それに未来では元気を出して貰える僕の歌を届けにいくから」
芯の通った声で、そう告げる彼。そこからは強い決意が感じられた。
「カナトっていいます。君が何処にいても僕の歌声が届くように頑張るね」
彼は手を差し出しながら、そう言う。
私は彼の手を握り返し、笑顔で答える。
「ありがとう。応援してます」
私の言葉に彼も笑顔になってくれた。
そして私とカナトは別れた。
何も考えられなかった。ただひたすら歩き続けた。
上を見上げると綺麗な夕陽が見えた。
「...綺麗」
小さく、そう呟き、私は近くの高台へと向かい始めた。
空に近づきたかった。父が居る空に近づきたかった。
高台に着くと、そこには先客がいた。
1人になりたかった為、別の場所に行こうかと思った時、歌声が聴こえてきた。
男の人がギターを弾きながら歌っている。
彼が歌っていたのは父が作った曲だった。優しく、優しく歌い上げる彼の歌声を聴いていたら涙が溢れた。
泣いている私を見て、彼は驚いた顔をした後、優しく微笑む。
「良かったら僕の歌を聴いていってください。今ここにいるのは君だけだから、君の為に歌うよ」
温かい声でそう言ってくれた。
「...はい」
彼は私に笑顔を向け、また歌い出す。
父の曲が私の心に響く。父はいなくなった。でも父の曲、父が居た証は今も、これからも残り続けるのだと分かった。
歌い終わった彼は一息つき、私に話しかける。
「聴いてくれてありがとう。僕、この曲スゴく好きなんだけど聴いたコトあるかな?」
「...聴いたコトあります」
聴いたコトがないわけがない。だって私のお父さんが作った曲だから...。
「スゴく素敵な曲だよね。『泣きたい時は泣いていいよ。その涙が悲しみを流すから』って歌詞が大好きなんだ」
前も聴いていた。でも今彼が言った歌詞が、前よりもずっと心に響いてきた。
あぁ、溢れる...。
私は泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。
泣いている私に、彼は静かに話しかける。
「どうして泣いてるの...?」
どうして...?お父さんが死んでしまった。一人になってしまった。だから私は...。
「...生きる理由が分からなくなりました...」
いきなりこんなコトを言われても困るだけだ。
それは分かっているのに、他の言葉は見つからなかった。
私は目の前にいる人の顔を見るコトが出来なかった。
「...そっか...」
ボソッとそう言われる。初対面の人にこんな悲しい気持ちを溢すなんてどうかしてる。早くサヨナラしよう。
そう思った矢先に明るい声が響いた。
「じゃあさ、何かやりたいコトはある?」
「え?」
顔を上げると彼は満面の笑みをしていた。
「やりたい...コト?」
「明日やるテレビを見たいとか、来月発売される漫画を読みたいとかそんな簡単なコトで良いんだ。これからしたいなぁって思ってるコトはある?」
私がこれからやりたいコト...。
『玲那の曲が聴けるの楽しみだな』
その時父の言葉が頭に浮かんだ。
「...曲を...作りたい...」
父が楽しみにしてくれて、私が聴かせたいって思える曲を作りたい。
「わぁ!曲作るんだ!スゴいね!」
あまりにもキラキラした顔で言われ、私は思わず慄く。
「えっ...」
「やっぱり曲は良いよね!色んな想いを乗せられる。それにどんなに遠くに離れてても、会えなくても、音楽だったら聴いてもらえる」
「会え...なくても...?」
「うん!音は何処にいる人とも繋いでくれるって思うよ」
何処にいる人とも...空にいるお父さんとも繋いでくれる...?曲を作ったらお父さんも聴いてくれるかな...。
「...空に...いるんです...聴かせたい人が...。聴いてくれると思いますか...?」
「...音楽は空にだって届くよ。絶対、聴いてくれる」
私を真っ直ぐ見て、そう言ってくれる。
ただ私を元気づかせる為に言った言葉だろう。それでも真っ直ぐ私を見て言ってくれた彼の言葉を信じたいと思った。
「ありがとう...。やっぱり私...聴かせたい...。それに好きです...曲を作るの...」
「好きなコト、やりたいコトがあれば大丈夫だよ」
彼は私の頭を優しく撫でる。
「生きる理由って見つけるの難しいよね。でもやりたいコトがある。それをやるまでは死ねないなぁって思うと生きられるんじゃないかなって思うんだ」
あぁ...確かに...。
彼の言葉を聞いて、私の心が和らいだのを感じた。
「死ねない理由を積み重ねて、生きたら良いんじゃないかな」
今は曲を作りたい。そしてこの先で他にも何かやりたいコトと出逢えたら、それも死ねない理由になる。そのやりたいコトも特別なコトじゃなくて良い、簡単なコトで良いんだよね。
私はまた涙を流す。でも悲しい顔ではなく、笑顔で私は泣いていた。
「そっか...そっか...」
「また悲しみに囚われそうになったら、今日のコトを思い出して。それに未来では元気を出して貰える僕の歌を届けにいくから」
芯の通った声で、そう告げる彼。そこからは強い決意が感じられた。
「カナトっていいます。君が何処にいても僕の歌声が届くように頑張るね」
彼は手を差し出しながら、そう言う。
私は彼の手を握り返し、笑顔で答える。
「ありがとう。応援してます」
私の言葉に彼も笑顔になってくれた。
そして私とカナトは別れた。