彼女の脳裏には、自分が今までやってきたことが次から次へと浮かんでいるのだろう。同じく、ウォーレンの脳裏にも、犬になって思う存分甘えてしまったあれやこれやが浮かぶ。
 とんでもなく気まずい空気が流れた。

「へ、陛下が、ワンちゃんだったなんて……。 そ、そんな……」
「カレン、すまない……。その、君がそんなに犬が好きだと思わなかった……」

 カレンの華奢な方がピクリと跳ねる。
 先ほどまでの冷たい雰囲気が崩れ、カレンはおろおろと視線を彷徨わせていた。いまや顔は耳まで真っ赤で、今にも泣きそうな顔をしている。

「へ、陛下、申し訳ございません。私ったら、陛下がその、あんなに可愛らしい姿になっているとは知らず、とても無礼な態度をとってしまいました……」
「あ、いや、それは俺もだ……」

 むしろ、自分が犬の姿だからと油断し、明らかに皇帝として――、いや人間としてふさわしくないアレコレをしていたのは、間違いなくウォーレンである。
 しかし、カレンはウォーレンの痴態より、自分の行いのほうが気になるらしかった。