「……あのね、子供を早く作れとお父様からお手紙が来たの。お世継ぎを産むことが、皇后の仕事だから」

――あの権力にしか興味のない、ろくでなしの古狸め! 面と向かって私に進言できないからと、影でカレンにそんなことを命令していたなんて!

 ウォーレンは舌打ちしたくなった。人間の姿であれば間違いなく舌打ちしていただろう。
 カレンはぽつりぽつりと胸の内を明かしていく。

「お世継ぎなんて、どうしたらいいのかしら。だって、私はウォーレン様の寝室にすらいれてもらえないのよ? きっと、私なんかでは、陛下には物足りないのよ。だって、あの方は完璧なお方だもの」

――物足りない!? そんなわけないじゃないか!

「私を愛してくださらないのも、きっとそのせい。完璧な陛下の妻として、もっと頑張らなきゃいけないのに、私ったら悲しいことがあると、すぐにこの中庭に逃げてきてしまう。自分でも、情けなく思うわ……。私なんて、皇后なんかになるべきじゃなかった」

 カレンのアイスブルーの瞳から、ポロリと大きな涙が流れる。それはいつも堂々として理想的な皇后の姿とはほど遠い、弱々しい姿だった。