ハベリア家の正門でエドニアと共に待っていると、やがて街道から馬車が走って来た。
 車を引くのは見事な毛並みの白馬。
 車体は陶器のように綺麗な白磁で、黄金の装飾で紋様が刻まれていた。

「うむ、あの紋章はジョシュア公爵家で間違いないな」 

 馬車は正門の前で止まり、御者がマイアを迎え入れる。
 豪華すぎる馬車に呆気に取られていた彼女だったが、エドニアに背中を押されて進み出る。

 彼女を送り出すと同時、エドニアはマイアの耳元で囁いた。

「いいか、マイア。向こうに着いたらすぐに支度金を送るように、公爵様に申し上げるのだぞ」

「……承知しました」

 エドニアがこうも金に執着しているのは、妻と娘の金遣いが荒いからだろう。
 気に入ったドレスや宝飾品があれば迷うことなく買い、舞踏会に遊びに行く日々。
 そんな母子のせいで財政が逼迫し、こうしてマイアを売りに出すこととなった。

 公爵の後ろ盾を得れば、多少は財政が安定するだろうという目論見があった。

(……送りたくないわね。でも仕方ないわ)

 本音を言えば、遊びに消える支度金など送りたくなかった。
 領民のために使われるのならば喜んで送るが、どうせ碌な用途ではない。

 しかし支度金を送らなければ、後で何と言われるかわからない。
 これまでの人生で家族に服従する癖がついていたマイアにとって、支度金を送らないという選択肢はなかったのだ。

 だが、この地獄のような伯爵家から出られるのだ。
 考えれば、送金など苦ですらない。
 マイアは満面の笑みを湛えて馬車に乗り込んだ。