荷物をまとめるのに時間はかからなかった。
 大した物も与えられていないので、持っていくのは最低限の小道具のみ。

 令嬢だというのに、派手なドレスや宝飾の類は一つもない。
 小さな鞄一つに詰め込めるくらい、持っていく荷物は少ない。

「こんな荷物で公爵様を不快にさせないかしら?」

 高貴さの欠片もない身なりを見て、婚約破棄されてしまったらどうしよう。
 しかし、悪い噂が流れているマイアを嫁に貰うくらいだ。
 身なりなど気にしないかもしれない。

 今回の婚約は絶対に破棄されてはならない。
 マイアはこの家を離れて、一生戻らない腹積もりでいた。
 公爵家に嫁ぐ以上は離縁しても慰謝料が出るだろうが、あまり下手な真似はできない。

「これで小屋ともお別れね」

 いくら古びた小屋とはいえ、長年過ごした思い出深い土地。
 もちろん思い出の大半は、侍女やコルディアに虐められた記憶なのだが。

「よーし……お母様、私がんばります!」

 かじかむ手に「おまじない」をかけて、マイアは立ち上がった。

 生まれ育って十六年。決して短い人生ではなかった。
 今日から彼女は生まれ変わり、新しい人生を歩むことになる。