父の言葉を聞いた瞬間、マイアは目を見開いた。
 嫁にもらう……つまり婚姻。
 自分のような人間に婚姻の話が舞い込んでくるとは思えない。

 社交界におけるマイアの噂は酷いものだ。
 妹のコルディアを囃し立てるために、あらぬ噂を流布されていることは知っていた。

 性格が傲慢、金遣いが荒い、豚のように太っている、最低限の学もない……などなど。数え上げたらキリがない。

 父もコルディアの性格に難があることを察してか、噂の拡散を止めることはなかった。
 噂が事実と違うことを隠すため、父はマイアを社交界に出させようとすらしない。

「で、ですが……どうして私を嫁に?」
「結婚相手は、ジョシュア公爵だ」
「……!」

 ジョシュア公爵。
 その名を告げられた瞬間、マイアは口を開けて固まった。

 マイアの様子を見て、コルディアとシャニア母子は笑いをこらえた。
 彼女たちは口元に手を当て、わざと聞こえるようにささやく。

「ねえお母様、ジョシュア公爵ですって!」
「まあ、あの超堅物の! 大の女嫌いで暴力を振るう、冗談がまったく通じない公爵様ね!」
「でもお姉様にはちょうどいい相手ではなくて?
 だってお姉様、まったく喋らないもの! 相性がいいに違いないわ!」